■ 理事長メッセージ
理事長 高橋昭彦
日本認知神経リハビリテーション学会監事
高知医療学院客員教授
児童発達管理責任者
理学療法士
生まれたての赤ちゃんの脳の重さは約350gであり、成人の脳の重さ(約1300g)の1/3~1/4しかありません。出生後、この脳の重さは急激に増加していき、2歳から3歳にかけて1000gを超えます。このような急激な増加は新たな神経細胞が形成された結果、すなわち神経細胞の数が増えたためではありません。神経細胞は、成長とともに増えるどころかむしろ減っていきます。では何故、わずかな期間で急速に脳の重さは増加するのでしょうか。それは脳の中で神経細胞と神経細胞をつなぐネットワークが網の目状に張り巡らされていくからです。赤ちゃんの脳の神経細胞は出生当初、手あたり次第とも表現できそうなくらい様々な細胞間でランダムにネットワークを形成します。一旦形成されたネットワークは永続的なものではなく、使用頻度の高いネットワークは強化されて残り、逆に余り使われない経路は消えていく運命にあります。医学領域ではこのような神経細胞のネットワークの変化を剪定(せんてい)と呼びます。音を聞くと色が思い浮かぶなど、通常ではありえない能力を発揮する人がテレビなどで取り上げられることがありますが、これは共感覚と呼ばれる現象で、本来幼少期に断たれるはずの音と色に関わる神経細胞のネットワークが大人になっても残った結果だと考えられています。どのネットワークが強化され、どのネットワークが断たれるのか、その脳の変化こそが学習であり子どもの発達を決定づけます。発達や学習は、生得的に決められている部分もありますが、成長の過程で子ども自身が何を感じ、何を知覚し、何を思考したのか、つまり成長の過程でどのような体験や経験をしているのかといった環境と主体との関係性にも大きく影響を受けます。例えば、他者がバイバイをしているのを見た子どもが同じようにバイバイをするといった現象は模倣と呼ばれ、特に乳幼児期の子どもでは日常的に良くみられる現象です。模倣は学習が成立するための重要な要因ですが、近年の神経生理学では、“他者が行っている行為を自分が行っている行為として認識する”神経細胞であるミラーニューロンが発見され、人間の脳には生まれつき模倣を成立させるための基盤が存在することが明らかとなりました。しかし子どもは反射的に模倣するだけではありません。模倣の成立は、子どもにとっての欲求、観察内容、自分との関わりといった内面的な心理状態にも大きく左右されます。発達障害をもつ子どもは、何か特定のものに関心や興味が集中しやすいため他のものに興味が移りにくかったり、注意が散漫となって興味を示さなかったりしがちです。そのため発達や学習が適切に進まない場合が多くみられます。子どもの脳は可塑性(変化する可能性)が高く、適切な介入によって発達や学習を促すことができますが、そのような発達や学習を効果的に支援するためには、子どもの振る舞いや行動といった目に見える外面的側面だけではなく、心理状態や脳活動などの目に見えない内面的側面から子どもを注意深く観察し、いま子どもの中で起こっていることを理解しようと努める観察者の視点が鍵を握ります。私たちリハビリテーション専門家は障害をもった方に対して、有効な治療介入を行い回復を導くために患者さんの外面的側面のみならず内面的側面に対しても注意深く観察します。これまで医療分野で培ってきた専門家の知識や技術は、障害をもつ子どもたちの発達や学習の促進にも貢献することができます。
私は前職である高知医療学院に専任講師として赴任していた時期にイタリアに留学する機会を得ました。イタリアでは主に脳のリハビリテーションである「認知神経リハビリテーション」を学びました。帰国後は高知県立療育福祉センターなど小児リハビリテーション領域における臨床アドバイザーを務める傍ら、日本認知神経リハビリテーション学会の理事および事務局長として学術活動や教育活動を続けてきました。認知神経リハビリテーションは、注意・知覚・言語・記憶など脳機能に介入するリハビリテーションであり、成人の中枢神経系疾患、整形外科系疾患のみならず、自閉症や注意欠陥多動症、学習障害などの発達障害を含めた小児分野のリハビリテーション技法としても注目されています。
NPO法人子どもの発達・学習を支援するリハビリテーション研究所が運営する私たちの施設は、子どもたちにとって日常生活の場でありかつ療育の場でもあります。子どもたちが楽しく過ごせる施設であることを常に心がけ、質の高い療育サービスを提供することに職員一同努めています。
私たちの新たな挑戦が、障害をもつ子どもたちやその家族の方々の未来への希望につながることを願っています。
■ 理事長略歴
平成 3年 3月 | 九州リハビリテーション大学校卒業 |
平成 3年 4月 | 兵庫県立総合リハビリテーションセンター入職 |
平成12年 4月 | 日本認知神経リハビリテーション学会理事就任 |
平成13年 4月 | 神戸大学大学院医学系研究科入学 |
平成15年 3月 | 神戸大学大学院博士前期課程修了保健学修士 |
平成16年 3月 | 兵庫県立総合リハビリテーションセンター退職 |
平成16年 4月 | 高知医療学院入職 |
平成17年 9月 | イタリア・ピサ認知神経リハビリテーション小児クリニック イタリア・サントルソ認知神経リハビリテーションセンター留学 |
平成26年12月 | NPO法人子どもの発達・学習を支援するリハビリテーション研究所設立 |
平成27年 2月 | 高知医療学院退職 |
平成27年 4月 | 指定児童発達支援事業所ばんびーにこくらみなみ開設 |
平成28年 1月 | 放課後等デイサービス事業所あぷれんどこくらみなみ開設 |
平成29年 4月 | 指定児童発達支援事業所ばんびーにこくらきた開設 |
平成29年 4月 | 放課後等デイサービス事業所あぷれんどこくらきた開設 |
平成31年 4月 | 指定児童発達支援事業所ばんびーにもじ開設 |
平成31年 4月 | 放課後等デイサービス事業所あぷれんどもじ開設 |
令和 2年12月 | 指定児童発達支援事業所ばんびーにやはたひがし開設 |
令和 2年12月 | 放課後等デイサービス事業所あぷれんどやはたひがし開設 |